いっそ宝箱

日々のあれこれや何かの感想、考察という名の妄想など

三ノ宮、バンド、夜


5年だか6年くらい前、21から23くらいまでの間、私はよく三ノ宮に居た。
当時仲の良かった友人がそこらで一人暮らしをしていたから、ということもあるし、私はキュウソやコイルスといった神戸バンドが好きで、たまにライブに行っていたからというのもある。
ただ今日久々に三ノ宮の駅に降りたけれど、もうどこがどこだか分からなかった。改札を出てからどこに向かえばいいか。大きな本屋さんがある場所。あの子と食べたおいしいご飯屋。週一くらいで行っていたこともあるはずなのにもう全く分からなかった。

何より、また一人で三ノ宮までライブを観に行くとも思ってなかった。

私が神戸バンドにハマっていたのはちょうどニートの時である。
高卒で働いて、三年で仕事を辞めた。よくある話だ。その頃周りは大学生で、専門学生で、ともすれば就職をするような時期で、高卒友達はみんな仕事をしていて。
自分だけが無職だった。なんの役割もなく、けれど貯金は100万あった。
私は家に対して月に3万入れ家事手伝いをする代わりに半年間ニートを続けた。洗濯物を干し終わると、家にいるのが嫌になってよく出掛けていた。家にいると私はただの無職だったけれど、外に出て何かをすれば社会の一部になれた気がした。散歩しながらビールを飲む人、一人カラオケに行く人、友達と遊んでる人、ライブにいるお客さん。
私はその中でもお客さんという役割がとても好きだった。

だからバンドにハマったのだと思う。
最初は友人の話の輪に入るためだけのアイテムだった「バンド」というコンテンツが、きちんと自分のものになった瞬間だった。
私は自分の好きな系統の音楽がどんなものか分かるようになり、それらのCDを買い、それらのライブに行った。
ライブハウスだとシャングリラによく一人で行っていたけれど、やはりよく覚えているのは三ノ宮だ。ライブハウスの名前すらもう忘れてしまったけれど、片道二時間くらいの時間を掛けてあの場所に行った思い出はやはり色濃い。

けれど100万あった貯金が10万になった頃、私はバイトを始めなければならなくなったし、お金がないから滅多にライブにも行かなくなった。
そしてバイトを辞め、契約社員で福祉関係の仕事についた。
私はまた100万円を貯めて、今度は一人暮らしを始めた。お陰でまた貯金はなくなったけれど、働いているからお金が減り続けることはなかった。またライブにも行けるようになった。

けれど一人暮らしを手に入れてからというもの、私は外出するタイプの娯楽にあまり手を出さなくなってしまった。
映画館にも行かなくなり図書館にも行かなくなった。ライブは友人に誘われたら行くものになった。あんなにバンドに救われて、一人でだって行っていたのに。役割をもらえて嬉しかったのに。
それでも私はTwitterを辞め、外からの情報を遮断した。気づけばコイルスは解散していたしキュウソは独特のライブのノリが出来上がっていた。

それでも時々フェスに行ったし、カンラバには2015年から毎年参加している。
そんなとき、2016年。プププランドに出会った。バンド名にふさわしいカントリーロックで、優しくてとても可愛かった。プププの物販にいたのははいからさん。キュウソのライブに行ったときもよくはいからさんが物販に立っていたな。私はよく売れてるCDがどれかを聞き、それを購入した。それが「BYE!BYE!BYE!」だった。

2017年のカンラバにはプププも空きっ腹も出演ひていた。

2017年のプププも楽しかった。今度は物販でTシャツを買ったのだが、物販に立っていたのはなんとコイルスのベースの人だった。この人プププになってたんかい。あんな金髪でロン毛やったのに今バチバチの坊主になっとるやんけとビックリした。調べたら結婚もしていた。コイルス当時付き合っていたあの彼女さんとだろうか。プププを聴いた瞬間「好きだ」と思ったのはコイルスと繋がっていたからというのもあったのだろうか。
あの頃好きになった音楽の系統は私の中で揺るがないものになっているのかもしれない、そう思うとなんだか少し嬉しかった。

空きっ腹はライブこそ2012年の一度しか行ったことがなかったが、その一回はCDを聴き込んで聴き込んで行った一回だった。とかく曲が好きだったしボーカルの顔が好きだったが、彼らがライブする場所に私は一人で行けなかった。ビビっていたのだ。その奇跡の一回だってシャングリラでやってたから行けたんだ。
そんな空きっ腹をカンラバにて五年ぶりに観て何かが弾けて、私はTwitterを再開した。また情報を集めるようになった。

空きっ腹を求めてライブに行った。弾き語りにも行った。ボーカルを難波の街で偶然見かけたこともあった。私は浮かれていたけれど、浮かれるのが馬鹿らしくなって結局すぐにライブを追いかけようと頑張るのをやめた。チケットを買うだけ買って行かないこともあった。仕事をして、家に帰って、ご飯を食べた。彼氏を作ったり別れたりした。

そんなとき、Twitterでプププと空きっ腹が三ノ宮でライブをすることを知った。
しかしプププの閉園を知ったのはチケットを買ってからだった。友人に「チケット買ったはいいけど平日だし神戸だし行こうか迷ってて」と言うと、「でももう閉園やろ?」と返されて目が丸くなった。
そんなことは知らなかった。私はカンラバでしか彼らを観ないようなダメなファンだったけれど、グッズだってTシャツ一枚しか持っていないけれど、やはりそれなりに悲しくなった。

だからこそ、平日だったし神戸だったけどライブに行った。そういえばあの頃はニートだったから仕事したあとに神戸までライブを観に行くなんて初めてのことだ。年も取ったし、行きの電車ですでに疲れている自分がいた。もちろん、ライブが始まるとそんな疲れぶっ飛んでしまったのだけど。

久しぶりに観る空きっ腹はやはりカッコよかったしおもしろかった。神戸で観るのは初めてだったけれど、大阪で観るのとはやはり違った。立ち向かってる感が強かった。美しかった。隣の子がギターのファンなのか、ギターソロになると嬉しそうに手を挙げていた。そうだ、こんな風に自然に好きにライブって楽しめばいいんだよな。その子がすごく素敵だと思った。
私はパソコンが壊れていてスマホに音楽を取り込めないにも関わらず、空きっ腹の新しいCDを買った。またBlu-rayレコーダーで曲を聴こう。

そしてプププ。
よく跳ねる可愛いギターの彼はまるで別人みたいな髪型をしていた。
プププを神戸で観るのも初めてだ。ベースの人はコイルスの時に観ていたけど。それでもプププは初めてだ。さすがホーム感が強かった。
空きっ腹は前で観たけど、それ以降は2階で観ていた。2階は全体がちゃんと見える。そんなちゃんと見える場所で、隣の子が中々に泣いていた。話を盗み聞いたところ、ずっとプププを応援していたらしい。プププのタオルを肩に掛けて泣いていた。それでも音楽に体を揺らしていて、ああ、と思った。

最近大きめのライブ会場にしか行っていなかったからこそ思う気持ち。あんな小さなライブハウスに、色んな気持ちの人がたくさん。
それぞれの物語。私とプププ。私と空きっ腹。それがどれだけつまらなくても、一つだけの物語。


三ノ宮、バンド、夜。
あんなに懐かしい気持ちになった夜は本当に久しぶりだった。