いっそ宝箱

日々のあれこれや何かの感想、考察という名の妄想など

婚活をするにあたって

ずっと、クリームパンみたいな手をしている男の人を探していた。

お手々がまぁるくてふっくらした人。
つまり全体的にふっくらした人。クリームパンみたいな可愛い、美味しそうな手をもった人。
そんな人を探して一年と数ヵ月、婚活を続けた。
続けていく中で、クリームパンの手をもった人とお付き合いをしたりもした。だけどダメだった。手、という大好きなものが一つあればそれで好きになれると思っていたけどとうとう好きになれなかった。別れて、そのことを人に話して、ついに気付いた。

私がクリームパンの手を探し続けていたのは、今までで一番好きだった男がクリームパンの手をしていたからだ。

当時私は20、相手は29。彼は既婚者だった。そして彼はとっても愛妻家で常識があったので、また私のことなんて好みじゃなかったため、私は彼にアタックしたけれど見向きもされなかった。
好きだった。自分にしてみればあれは小説みたいな恋だった。
もちろんみんなと一緒にだけれど、彼からの飲み会の誘いの電話でスマホの着信履歴が埋まったこと。飲みの帰りに、缶の酒を飲みながら二人で手を繋いで帰ったこと(その時は私がひどく酔っぱらってフラフラだったで、彼は私が車に轢かれないように手を繋ぐことで助けてくれていたのだ)。夜勤の仕事中、二人で食べたカップヌードル。あの人がくれた缶コーヒー。

私は彼にしつこいほど告白をし、好きだと喚いてはフラれた。あなたになら私は何をされてもいいと直接的に迫ってみたこともあるが、彼は苦笑いを返すだけだった。あの時の私はみっともなく、最悪なほど下品だった。
けれどあれが私にとっての一番の恋だった。間違いなく。
優しくて楽しくておもしろい人。かわいい人。クリームパンみたいな手を持った、あの人。

そして婚活を続けていくなかで、どうしても人を好きになれなくて、困って困ってはたと気付いた。
ああ私は囚われたままなんだと。
いくらクリームパンの手を持った人と出会っても、いくらそんな殿方とお付き合いをしても意味がないのだと。だって思い出すのはあの人だから。同じような手を持っている時点で比べてしまっているから。

忘れていないのだ、私は。もうあれから随分と年を取ったというのに。忘れていないのだ。忘れたつもりだったのに。仕事も辞めたし、電話番号も着拒したのに。あの職場を辞めた7年前から一度も彼に会っていないのに。

忘れられない人がいる場合、婚活は上手くいかないらしい。納得だ。

私はこれから先、ちゃんと好きな人を見つけることができるのだろうか。
あの頃みたいに夢中で、とは言わないまでも、あの頃みたいに真剣に。結婚にときめきはいらないと言うけれどそんな人と一緒に暮らせる気もしない。こじらせているんだろうな。こじらせているんだろうけど。

根強く残っているもんなんだな。あの頃の恋のしぶとさ。気味が悪くて悲しくなる。どうしたら忘れられるんだろう。