いっそ宝箱

日々のあれこれや何かの感想、考察という名の妄想など

髪を伸ばしただけで


親戚のじじいどもから「女の子らしくなった」「そんな可愛かったか?」「長い方がいい」と褒められまくった。
ショートヘアで刈り上げてて明るめの茶髪だった時は「ブス」と言われまくり似ていると言われる芸能人も男ばっかりだったが、髪を伸ばしただけでその反応。うすら寒かった。

女が髪を伸ばすだけで、男性は「自分達のために」みたいな気持ちになる。なっている気がする。

髪を伸ばした→女らしくなった→女らしくするのは男の為だろう→つまり俺たちの為だろう→女として消費していい

みたいな構図が浮かんでしまう。
逆に短くて刈り上げていると

髪が短い→男ウケを狙ってない→俺たちの為に生きていない→けしからん→ブス

みたいな。
現に二十歳くらいの時、若くて髪が長いというだけでセクハラや痴漢を受けた。成人式で振り袖を着るから盛り髪にするために伸ばしてただけだったのに、そんな扱いを受けて気持ち悪かった。そこからずっと短かった。職場のおっさんにも「長い方がモテるやろ」と言われたが“きっしょ”と思うだけだった。

今は28、髪は肩より少し長いくらい。目の下のクマは目立つし、顔はくすんでいる。
そこでやっと私は女らしく生きることを許されたような気がした。
実家を出たのも大きい。私は女らしい服を着ると母に嫌な顔をされ「そんな格好して」と言われていたので、無頓着な自分を演じたり、奇抜な服装に興味を持つような傾向にあった。
家を出てから4年だから、私がワンピースを買うのには4年の月日が必要だったことになる。

女友達からも男っぽさを求められていたし、男みたいであればあるほど喜ばれたりした。私とのプリクラを人に見せると「横にいるのは彼氏?」と聞かれたと楽しげに話してくる友人もいた。「彼氏のふりしてプリクラ取って」と頼まれたこともある。

また、変に体が細いこともありショーパンを履いただけで「細いのを自慢してる」と思われることも多かった。そんな格好してくんなと言われたりした。
髪を伸ばしてから結婚出産した女友達に会ったら「でも毛質は相変わらずギシギシやな」と言われた。私が何をしても気にくわないのだろう。ブスのくせに調子のんなという意味だったのかもしれない。
しかしそういうことを言ってくる女は総じて彼氏が出来ると女らしくなったり、自分が女であることを享受していたりする。引き立て役の為か、私をその和の中に入れようとはしないけれど。

細くて背が高い、というだけで悪目立ちする。悪目立ちしたくなくて背中が丸まる。でも男のような格好をすると世間と馴染む。細身の男と思われるからだ。女の格好をしていると悪目立ちして世間から省かれた。女なのに。女子トイレに入ると驚かれることも多くて、入るとき妙に緊張したりした。顔はしっかりメイクしていたけれど、たぶんそれだけじゃ私は女になれなかった。

でもよく世間を見てみると背が高くて女性らしい服装をしてる人なんてたくさん居て、みんな堂々としている。
なんだ私が思ってるより世界は優しいじゃないか、と思う。私は傷つきたくないゆえにわざと世界を閉ざしているふしがあったのかもしれない。

でも私はやっと髪を伸ばせた。やっと女であることを許されたような気がしている。

髪を伸ばしただけでブスと言われる回数は減ったが、それは「髪を伸ばした→女らしくしている→いじりにくいブスになった」というだけかもしれない。だったとしたらそれでいいとも思う。いじりにくいブス、いいじゃないか。私は散々ブスいじりされてきたのだ。もういらない。かといって「消費していい女」扱いもいらない。人間になりたい。ただそこに居ていい存在になりたい。

女でいることを許された今、私の喜びはワンピース、ヘアゴム、イヤリング。今まで持てなかったものを少しずつ持って、幸せに生きたい。今までないがしろにせざるをえなかった私のために、私は女らしくありたい。