いっそ宝箱

日々のあれこれや何かの感想、考察という名の妄想など

水溜りボンド ドラマ「エレベーターで異世界へ行く方法」


が、すごく好きだったので自分の解釈でSSを垂れ流します。
以下、異世界後のカンタの世界。カンタの日記設定。どんどんトミーの記憶がなくなっていく話。捏造です。



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トミーが女性に入れ替わって4日目、夏

エレベーターの企画後、トミーが女性になったというドッキリのネタばらしをされないままで四日が経った。
ネタばらしも何も俺は彼女に違和感しかないのだけれど、キイチもPさんも女性のトミーも本当に普通に生活している。
悪ノリで撮ったメントスコーラの動画もYouTubeにアップしたけれど、トミーが女性であるということに対するツッコミのコメントは見つからなかった。
トミーが女性になった初日の晩、「そろそろ帰らないんですか?」と聞くと「なに言ってんの」と怪訝な顔を返された。
キイチもPさんも「カンタさんほんとどうしたんすか?エレベーターから変ですよ」「カンタくん、ちょっと休んだ方がいいよ」と言ってくるので俺は狼狽し、それ以上は言い寄ることが出来なかった。
エレベーター企画に着いてきていないまんずも似たような反応。意味が分からない。

……ただ、水溜りハウスのトイレに、あるはずのない生理用品が当たり前のように置いてあって心臓が跳ねた。
トミーは本当に異世界に行ってしまったのか?それとも異世界にいるのは俺なのか?
頭がグラグラして怖い。今さらという感じもするが、今日から出来るだけ日記をつけようと思う。



トミー女性化、7日目、夏

「ねぇもうさすがにしつこいって、本物のトミーどこなんだよ」とキイチに詰め寄ったが、「カンタさんまだそんなこと言ってるんですか?」とひどく困惑されただけだった。
俺が居ないリビングから「やっぱり疲れが溜まってるんじゃ」とか「一度メンタルヘルスに」という相談の声が聞こえる。これ以上問いただすのはヤバいかもしれない。なんてことないフリをしなくては。

こんな状態だが、YouTubeの毎日投稿だけは続けている自分が嫌になる。女性のトミーも日常の編集や企画会議を頑張ってくれている。
こっちのトミーも外ハネだ。



トミー女性化、14日目、夏

他のYouTuberさんとのコラボ動画の撮影。
周りから、「二人は本当に付き合ってないの?」と聞かれる。分かっていたことだが、この人たちから見ても俺らのコンビは“普通”らしい。
トミーはその質問に「付き合うとかは無いですね、私たち男女の前に相方なんで」と返していた。その反応に対し安心半分、落ち込み半分な自分がいる。

そもそもこんなに可愛くて綺麗な人と二週間も同じ家で暮らしているというだけでも褒めて欲しいくらいなのに、誰からも褒められないどころか羨ましがられる。
あと、男女コンビというだけでこんなにも「付き合ってる・付き合ってない」を問われるのかと知ってビックリしたし辟易した。

おまけメモ
こっちのトミーもGUCCIが好きだ。



トミー女性化、26日目、夏

洗濯物をトミーのと一緒に洗われていることに今日やっと気付いて顔面が紅潮した。
頼むからやめてくれ、俺のパンツも見ないでくれとトミーに懇願すると「なにカンタ、思春期じゃん」と鼻で笑われた。
洗濯は基本後輩がしてくれているので、「でもトミーもPさんとかキイチに下着見られるの嫌でしょ!?」と反論すると、「いやそれ今さら言う?」と。
そりゃそうだ。俺にとっては26日目でもこっちのトミーからしたら大学からずっと一緒なんだから。

話を聞くと、昔は分けて洗って分けて干していたが、忙しくなるにつれめんどくさくなって一緒にしたらしい。戸惑う男たちには「お母さんのパンツだと思え」と一蹴したらしい。強い。
こっちのトミーも後輩たちをよくご飯に連れていってくれるので助かる。
こっちのトミーも相変わらず食べることが好きらしい。ただ太ることは嫌なのか、俺にくれたはずのランニングマシーンを使ってよく運動している。



トミー女性化、35日目、夏

こっちのトミーもゲームが下手だ。
マリオの登場人物さえもちゃんと把握していないし、クリア出来ないとすぐイライラする。
そんなトミーを見て笑っていると、そういえばずっとこんな風だったかもしれないと思えるから不思議だ。
もう一ヶ月以上経ったからか、女性を意識してドギマギすることも少なくなった。
こっちのトミーは細くて白くて女性だけれど、前のトミーも髪がサラサラで綺麗な二重のJKみたいな奴だった。そう思うと共通点の方が多い。



トミー女性化、49日目、残暑

なんとなく節目に思える日数だ。
お供えを、と思いマックでコーラとビッグマックのセットを買って帰った。
当たり前みたいにトミーが食べた。



トミー60日目、まだ暑い

編集に追われている~。
トミーが「カンティー!」と叫ぶので「なにー?」と答えたらサブチャンで飯企画だった。そういえば今日はまだ何も食べてない。ありがたい。トミーは昔からそういうところがあるので助かる。
二人で他愛もないことを話しながらラーメンを食べた。ちょっとリフレッシュ。編集がんばろ。



トミー80日目、秋

リビングに行ったらトミーがYouTubeのメイク動画を観ながら化粧をしていた。
「なにトミー、ビューティー系じゃん」と茶化すと、「サブチャンでやろうかな」と笑っていた。
「トミーのメイク、女性の視聴者さんに人気あるから結構需要ありそうだけどね」と言うと嬉しそうな顔をされた。素直に喜ばれるとこっぱずかしい。



トミー女性化100日目、肌寒い

夢を見た。すごく久々に、昔のトミーの夢だった。
今日の夢を見るまで俺は本当のトミーのことを忘れていた。自分が嫌になる。普通忘れるか?なんのための日記だ。
でも俺だって日常を取り戻そうと必死だったんだ。いや、言い訳だ。
夢の中では本当のトミーが笑っていた。
でも起きてみるとトミーの顔が思い出せない。本当のトミーはどんな顔だった?
必死になって思い出そうとしてみるけど分からない。慌ててカメラロールを確認してみたけれど、本当のトミーはどこにも居なかった。どれだけ遡ってもあるのは今のトミーだけだ。異世界に侵食されている。
わかんないよ、お前どこ行っちゃったの?お前どんな顔だった?シルエットはなんとなく出てくるのに、思い出そうとすると今のトミーが頭に浮かんで邪魔をする。
トミー、俺忘れちゃうよ。ていうか忘れちゃってたんだよ。俺はお前がいない世界でどうして普通に生きているんだろう。でもみんなそれが普通なんだ。あれが富永さんだって言うんだ。彼女はあんな頼りない腕をしているのに誰も違和感を感じないんだ。これじゃおかしい。このままじゃだめだ俺はいったいどうしちゃったんだ、いせかいにいるのはおれのほうか?もうかんがえるのをやめたい。



102日目

トミーと喧嘩した。
喧嘩というか喧嘩じゃないけど。トミーが悪いけど。
なんで俺のグミ全部食っちゃうんだあいつ。
「なに?ドッキリ?」と聞いたけれどドッキリじゃなかった。いやドッキリであれ。
トミーは新しいグミを買ってきてくれた。晩ごはんも俺の部屋で一緒に食べた。仲直りした。



トミー150日目、冬

吐く息が少し白くなった。外でするマラソンは寒いけれど心地いい。そんな季節。
トミーが久々に鬼のセーターを着ていた。相変わらず鬼が似合う。俺はキツネのセーターを着た。
トミーは少し髪を切った。が、相変わらず外ハネだ。
昨日久々にトミーにドッキリを仕掛けてみたけれど、途中でバレてしまった。次こそは上手くやるぞ、と、いつも思うことは思う。



そこで日記は止まっていた。
私は髪を耳に掛けるとやれやれと肩を落とし、引き出しに入っていたその日記をゴミ袋に入れる。彼の日記の存在に気付いてからというもの、彼が居ない隙を見計って部屋に入るのに案外時間がかかってしまった。
しかしなるほど、こんなものを書いているから彼は中々こっちの世界の住人にはならなかったのか。
でもこれだけ日記を書くスパンが空いてきているのなら心配ない。これさえ捨ててしまえば、彼は本当の相方のことどころか日記を書いていたことさえもすぐに忘れる。しかし本当に健気なものだ。向こうはお前のことなんて何一つ覚えていないというのにね。
私はニタリと笑って階段を駆け降り、GUCCIのサンダルを履いて玄関に出た。

「さぁ、ゴミ収集車がやってくる」



END